浦和地方裁判所 平成元年(行ウ)23号 判決 1990年11月19日
埼玉県新座市野火止一丁目九番五八号
原告
株式会社嶋根鋼商
右代表者代表取締役
嶋根岳雄
右訴訟代理人弁護士
武田清一
同県朝霞市大字溝沼一八九〇番九
被告
朝霞税務署長 櫻井源寿
右指定代理人
若狭勝
同
杦田喜逸
同
小林政夫
同
青柳允隆
同
中澤勇七
同
三村明
同
三澤力男
同
神谷宏行
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
理由
第一原告の請求
被告が原告の昭和六一年六月二一日から同六二年六月二〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について昭和六三年一二月二七日付けでした更正のうち所得金額九二九万四二一六円、法人税額一七九万六七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
第二事案の概要
一 争いのない事実
原告は鉄鋼材並びに鉄鋼製品の卸販売等を営業目的とする、資本金五〇〇〇万円の株式会社であるところ、昭和六二年八月一一日、浦和税務署長に対し、本件事業年度について、青色申告の方式により所得金額を八八九万八〇八四円、法人税額を一六三万三四〇〇円とする確定申告をし、さらに、昭和六三年一二月一六日、被告(昭和六三年七月一〇日付けで原告の本店所在地が朝霞税務署の管轄区域となったことによる。)に対し、所得金額を九二九万四二一六円、法人税額を一七九万六七〇〇円とする修正申告をした。これに対して、被告は昭和六三年一二月二七日、所得金額を一二五五万二二一六円、法人税額を三一四万七二〇〇円と更正し、かつ過少申告加算税六万七五〇〇円の賦課決定をした。原告は平成元年二月二五日、これを不服として、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同審判所長は平成元年九月六日付けでこれを棄却する旨の裁決をし、その裁決書は同月二一日原告に送達された。
二 争点
原告は、昭和六一年九月二八日と同年一〇月一日の両日、創業二五周年記念並びに工場設備の増設及び工場社屋の落成を祝うための式典(以下、これを「本件記念行事」という。)を催した。これに要した費用は七三三万一二八六円(以下、これを「本件記念行事費」という。)であったが、その招待客等からの祝金が合計三二五万八〇〇〇円(以下、これを「本件祝金」という。)あった。そこで、原告は、その納税申告においては本件記念行事費から本件祝金を差し引いた残額四〇七万三二八六円に、本件事業年度中に支出した本件記念行事費以外の交際費等(租税特別措置法第六二条参照)の額四三〇万五四〇五円を加えた八三七万八六九一円から、同条第一項所定の損金算入限度額三〇〇万円を控除した残額五三七万八六九一円を本件事業年度における損金不算入額とした。これによれば、右損金不算入額は本件記念行事費の全額を本件記念行事に要した費用とした場合よりも本件祝金に相当する三二五万八〇〇〇円だけ少なくなり、したがって、所得金額もその分だけ少なくなるわけである。被告は、右法条所定の損金不算入額を算定するに当たり、本件記念行事費から本件祝金を差し引くというような取扱いは許されないとして、前記のとおり、所得金額及び法人税額の更正並びに過少申告加算税の賦課決定をしたものである。したがって、本件の争点は、右法条の解釈上、右のような取い扱が認められるかどうかにある。
第三争点に対する判断
今日、わが国の会社その他の法人においては、その得意先、仕入先その他の事業関係者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これに類する行為のために交際費、接待費、機密費その他の各目で、かなりの費用(交際費等)が支出されていることは周知の事実である。これらの費用の支出は、わが国の経済社会の実情のもとにおいては、事業運営の円滑を図り、その活動領域を拡大するために欠かせないものとみられており、企業会計上は、これらの費用は元来損益計算の過程で一般管理費・販売費として事業収入から控除される性質のものである。しかしながら、この交際費等の支出が巨額にのぼり、しかも、その支出額が年々増加し続けているという事実に対して厳しい社会的批判が生じている実情に鑑み、租税特別措置法第六二条は、冗費、濫費を節減して企業所得の内部留保による資本蓄積の促進を図る等の政策的な見地から、法人税の課税標準となる事業所得金額の計算との関係では、交際費等の額(ただし、小規模の法人については一定額を超える部分)は損金に算入しないとする特別の定めをしたものである(乙第一号証)。このような同法条の趣旨・目的、及び同法条にはほかに交際費等の額について特別の定めはないことからすれば、同法条所定の交際費等の額とは、前記接待等の交際行為のために支出した費用の全額をいうものであることは明らかである。
ところで、本件祝金は本件記念行事に招待を受けた客が祝意を表すためにその主催者である原告に対して贈呈した金銭であって、客の側からの原告に対する交際行為にかかる費用に相当するものであり、本件記念行事に招待されなければ、祝金が贈呈されることもなかったという点では、本件祝金の贈呈と本件記念行事費の支出とは密接な関係にはあるけれども、本件祝金は当初から本件記念行事の費用の一部に当てられることが予定されていたものではなく(この点で、会費制のもとに催される行事において、参加者が拠出する会費その他の各目の負担金とはその性質を異にする。)、原告は祝金の贈呈の有無及びその金額の多寡にかかわりなく、当初から本件記念行事費全額の支出を免れなかったものである。そうすると、本件記念行事との関係で、前記法条により損金不算入の対象となるのは本件記念行事費の全額であって、これから本件祝金を控除するような取扱いは同法条の解釈上許されないと解するのが相当である。
もっとも、このように解すると、本件祝金は贈呈した客の側においては、損金不算入とされて課税の対象となり、これを受けた原告の側においてもこれが収入となって所得の一部を形成し課税の対象となるという関係が生ずるが、前述したとおり、交際費等の損金不算入制度は、本来的に交際費等の支出を抑制しようとする政策的な立法によるものなのであるから、その当否は別として、右のことが前記法条の解釈適用上格別の意義を有するものではない。
したがって、被告がした前記更正及びこれをもとにした過少申告加算税の賦課決定は適法である。
(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 小林敬子 裁判官 西郷雅彦)